入門者のための道具紹介〜鑢(やすり)

今回はヤスリについてお話します。

ヤスリと言うと紙やすり(サンドペーパー)というザラザラした粒の付いた紙を思い浮かべる人もいるかもしれませんが、ヴァイオリンが生まれた時代には現代のような高性能の紙やすりはありませんでした。そのため私たち弦楽器職人がヤスリと言うとまずは写真のような鉄やステンレスで作られたヤスリを指します。

ヤスリは鑿(のみ)以上に種類が豊富で、切れ味の粗さ(目(め)の粗さと呼びます)を数えれば、数えきれないほどたくさんあります。ヴァイオリン製作家はその中から使いやすいものを選びいくつかを使っていきます。

これらのヤスリには木を削るためのものも多いのですが、それらはとても粗いので鬼目ヤスリ(おにめやすり)と呼ばれることもあります。イタリア語でもRaspa (ラスパ)と呼び、目の細かいlima(リーマ) とは区別されています。

また目の細かいlima は実は本来木を削るためのものではなく、貴金属を削るために作られているものを弦楽器技術者が使っているのです。話が少し飛びますが、貴金属を削るためのヤスリは宝飾職人はもちろん、機械式時計の時計職人にも使われていると聞きます。時計の小型化とヴァイオリンが現在の形に洗練されたのは時期的に重なるので、様々な文化の洗練がお互いに刺激を与え合って今日にいたることも道具にふれながら想像できます。

ヤスリはスイス製のものと、ドイツ製のものがその質の高さでよく知られていますが、目の粗さの呼び方は少しずつ違います。日本は刃物文化が発達した分、歴史的にはあまりヤスリ文化は発達してこなかったので、国内でヤスリを買うのはお店も限られ、少し難しいかもしれません。また以外と安くはない道具なので、吟味して必要なものを1本1本揃えていくとよいかもしれません。

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